文字狂い

オタクにもサブカルにもなににもなれずに死ぬ

秋が枯れていく

台風が過ぎたら秋がやってくる。なんといってもこの秋は特別にしたい。だからわたしは自殺した。自殺したら、わたしには今までずっと子分がいたのだとわかった。子分はできそこないで、いつも私の足手まといになっていた。子分と同じ身分になった今、死ぬ前に起こった出来事あれこれの裏という裏側を知り、すこし慄いている。でもまあ死んだから、わたしには関与することもできないし。それより人間に再び戻らないといけないみたい。人間になるために就労支援みたいなことをあの世でもさせられることになった。

子分は「かえでちゃん、やめときなよう」と声を震わせて邪魔を入れるが、知ったことかと思い、釜茹での地獄に向けて荷造りをしていた。生前はありとあらゆる自傷行為をしてきた。釜茹でとか、いわゆるダチョウ俱楽部の熱湯風呂ってやつ?どうせ熱くないんだろ。

釜茹での地獄に子分ともども連れて行くと、バイトのおじちゃんが優しく手順を教えてくれた。ドライヤーは100円で7分とか、ロッカーがあるとか、お湯は熱いから気をつけてなど。実際温泉は熱めのお湯だったけどなかなかよかった。……温泉って言っちゃった。じっくり風呂に入りたかったけど、わたしはガリガリだからすぐのぼせちゃって、先にお湯から出ると子分が「かえでちゃん、待ってよう」と情けない声で呼び止めた。

子分は赤ちゃんみたいな躯体で、ありし日の弟に似てなくもない。弟は障害者なので、普通にいつまでもなれないのだが、弟が普通になるとしたらこうだったのかなと思わなくもない。

でも子分は弟じゃない。その理由は、わたしのことが好きだからだ。

「かえでちゃん。僕かえでちゃんと一緒にいれてうれしいよ」

そうなんだ。わたしは一人がいいな。一人で秋が枯れていくのを楽しみたかった。

「かえでちゃん、ずっと、会いたかった、僕、なみだがでるよ」

そうなんだ。君って私のツイートにぶら下がるおじさんに少しだけ似てるね。やけに純粋なんだよね。私に対して。恋をするってそういうことなのかな。恋、したことあるけど忘れたや。恋、したことあるんだろうか。ただピカピカしたものをありがたんでいただけだったのではないか。

浴衣を着て、風呂上りのフルーツ牛乳を飲んで、桜の木が紅葉してぼとぼと落ちていくのを見ている。ミドリの「5拍子」が現世から流れていく。

 

”神様に縛られた夜がやってくる
赤く染まる面影と上手くやれるんかなあ”

”純粋に生きたかった ただ それだけです
知らず知らず 口ずさむ歌は枯れるんだろう”

”帰れずにさみしくって 抜け殻のふりをする”

”永遠がほしくって 少し泣いてみた
あたしの頭は悪くって 少し 悲しいんなあ”

”とめれずに会いたくって 抜け殻の恋をする”

”下を向く 遅すぎる 敵わない敵わない
あたしだけあたしだけ「大丈夫、大丈夫。」 息を止めた”

”快楽に『愛』をみた 抜け殻の恋をする”

 

後藤まりこを見た時、わたしみたいだと思った。いや、後藤まりこを見てからわたしが育っていたのか。わたしの中の叫びはミドリで体現している。それだけじゃ足りないけど。

後藤まりこは障害者じゃないから、ロッカーだから、貞操観念がバカになっていて、わたしも貞操観念は最近まで私の意志によらずとも障害者だというだけで守られてしまった。でも別に、処女散らすのはその気になればできるはできるなと思った。若干嫌な思い出にはなった。

子分がわたしのこと幻を見る目で見つめている。幻のままでいいよ。

「かえでちゃん。僕と一つにならない?」

僕と一つになるにはどうすればいいのか? スピリチュアルの話はここ数年仲良くなった友達・西の子さんが詳しかった気がするけど、もうちょっと話を聞いてから死ねばよかったかも。なんかツイッターでツインレイとか生霊とか言ってたな。

「一つになるってどういうこと?」

「つまり、こういうことだよ」

そういうと、子分はわたしの魂を星のカービィみたいに吸い込んで、飲み込んだ。わたしは子分の体内に入ることになった。

子分の体の中はクソみたいな詩集でいっぱいだった。それを意味が分からん銘柄の紅茶でながしこんでいて、トイレの芳香剤みたいな趣がある。

その中でわたしというポエジーがこいつによって消化されようとしている。ここでわたしが消滅したら、ずっとこの胃の世界の中で同じ言葉を繰り返していくのかな。

すると、子分がわたしを吐いた。

「胸焼けした」

と言って、それからどっか行った。わたしは一人で秋を楽しむことにした。

 

”カワイイあたしよ死なないで
大人になっても生きていて
人はみんな忘れてく生き物だから
忘れましょう あたしから ああ嫌な子だ”

 

結構簡単に死んじゃったな……。でもいっか。ここで頑張って、来世に向けて就労支援がんばろう。またピッピちゃんにもママンにもコーちゃんにも会えるかな。

 

”カワイイあたしよ死なないで
どこにも行かずに生きていて
苦しまず、続いてく、昨日の続き
いいのかな いいんでしょ これから先も…”

”カワイイあたしよ死なないで
大人になっても生きていて
キラキラな青空が大好きだった
サヨナラサヨナラ また会う日まで”