文字狂い

オタクにもサブカルにもなににもなれずに死ぬ

あなたは軸がぶれている

「俺は思うね。勃たないことは素晴らしいんだよ。勃起するから俺たちは無力なんだ」
「なんでそう思うのいきなり」
「俺って無力だなって思うね」

測するに、伊藤くんは自己実現がうまくいってないんだな〜と思った。最近「新興宗教を作る!大川隆法は芸術家だ!」とツイートしていたので、新興宗教という体裁で起業でもするんかなあと思っていた。新興宗教と生殖はあり得る発想だが、勃起ってなんのためだよと悲しさを予知していた。

「日本って宗教ぎらいとか言うけど、新興宗教の国だよ。俺がそこで頭角を現すには、ポイントを抑えつつオリジナリティを模索することやんね。俺は枕をやるよ」
「枕って、そんな、やめてよ、枕営業じゃん」
「俺は全世界から俺のちんこを搾取されて帝国を作る。勃起するたびに俺は求められてんだわ。無力が力に変換されるとき、俺は革命を起こすんだわ。俺はやる。」

そう言って伊藤くんは半年ツイッターにログインしなかった。伊藤くんは大学のひとつ先輩で、同じサークルにはいたものの、一切話をしなかった。でもわたしは猛烈に伊藤くんに関心があり、ツイッターをヲチしていくうち、伊藤くんはメンズ地下アイドルになった。その後解雇され、半有名人みたいな位置にいることはいるが、伊藤くんのツイッターにリプするやつは一人もいない。わたしは心の中で伊藤くんに話しかける。

伊藤くんはおそらく、大学のつてで、霊験修行に行った。
伊藤くんは、ホストになり、酒に爛れた生活を送った。事前研修で高野山に行き、ポンチな頭に全知全能を注ぎ込まれた。

伊藤くんがホストをしている時、わたしは会社員をやっていた。伊藤くんの生活の足しになりたいと思ってお金をためてホストに行った時に限って伊藤くんはいなかった。思うに、伊藤くんを買うような人間なんてわたし一人しかいなかった。伊藤くんは自然体、情けないし、どういう努力をすれば垢抜けるかをわかってない。ゆえに枕営業をしても相手がいない。でもわたしは、わたしだけは、伊藤くんを高く買って奉る。わたしだけは、伊藤くんの良さというのを理解できる第一人者だと思っている。

伊藤くんがろくに客もとってないのに、メンズ地下アイドルになった、しかもセルフプロデュースで。というのは、さもありげな話だよなと思っていた、しかし、ライブで貞操を捧げた様子をドキュメンタリー映画にして流しながら演じると聞いて、うかつにわたしが名乗り出せない要件になってしまった。
しかたないので、わたしは見てるだけしかできない、まあそんなむっつりスケベなわたしは、どんな形で伊藤くんが新興宗教を作り、日本を担っていくのか、楽しみではあるし、このくらいROMっているともはや伊藤くんが童貞を失ったらどうなるのか楽しみでしかたなかった。伊藤くんが童貞を失うとしたら先輩ホストの本指名とかで、罰ゲームとかでセックスするのだろう。あーあ、わたしだったら伊藤くんのためになんでも尽くしたいのにな。伊藤くんあのね、わたし今貯金が一千万あるんだよ。一千万。28歳でだよ。だけど伊藤くんをしあわせにするには全然足りないね。

ねえ伊藤くん、本当に修験道を学んだの? 本当に修験道を学んだなら、わたしが毎晩伊藤くんのちんちんを弄んでいるのわかんないかな。ちんちんいじいじするだけで、本当にそれだけだけど、それですべてじゃない? 世の中で欲しいものはすべてこれじゃない? 一瞬の快楽を人から施してもらうって、どんなに人に任されて頼りになってナンバーワンホストになったとしても、人に恵んでもらえない人っているんだよ。伊藤くんはその点、なんでも持っている。童貞。わたし。先輩ホスト。青春。大学中退。

実際に、童貞喪失メン地下ファーストライブは決行されて、その前にわたしは伊藤くんにあるおまじないをした。
大画面に映る伊藤くんとホストの本指名が仲睦まじく交わって、いざ伊藤くんのパンツをめくると、伊藤くんは見えない糸で貞操帯が施されていた。そのまま挿入して、本指名の膣は血だらけになって終えていたけど、あれって童貞喪失になるんだろうか。なるんだろうな、伊藤くんの中では。
伊藤くんは怪奇現象の語り手として売れていって、とてもじゃないけど、新興宗教にはおいつけない。

でも伊藤くんがいつか新興宗教の祖になって、日本を救うのは見てみたい。九州産業大芸術学科中退の伊藤くん。自分に可能性があると信じて疑わない伊藤くん。全知全能を若くして手に入れた伊藤くん、しかし、それでもなお、無力な伊藤くん。実力行使をするのであれば、童貞というパワーでしか成し遂げられなかったが、それもなくなってしまった。
これから未来が短くなるんだよ伊藤くん。鏡を見るたびにおじさんになっていくの。お花みたいな女の子みたいな男の子がだんだん髭が濃くなって臭くなるの。それでもわたしは伊藤くんのこと好きだといえるよ。だからわたしを見つけて。愛してるとか抱きしめてとかいくらでも言えるの知ってる。だけど言わないの、わたしは、だから、せめて。あたしがいるよ、気づいて……