文字狂い

オタクにもサブカルにもなににもなれずに死ぬ

おもしろいひも

俺は背骨のない男。毎日レッドブルを飲み勃起したあの筋を倣って背中もピンと立つ。俺はどういう訳かモテる。モテにモテまくる。家を出たら水着ギャルがこっちにラブビームを送ってくる。俺は形而上誘いに乗る。俺に倫理がなければ、こんなやつスタンガンで感電させて一発シコった後スモークで燻してチーズと一緒に食パンに包んで食っちまうのになと思う。しかし社会性があるので、ひとつひとつ最終的には僕に対する好意を慎んでくださいという旨を言うことになる。

俺は思想のない男。情報商材で飯を食ってるが、トリチウムが出たか出てないか、宮台真司は眉唾かシコいか、よくわからない。最近思うのは、日本に生まれただけで母ちゃんからは一生逃げることができないだろうなと思う。オリエンタルブランドというか、生まれただけで東洋ってだけで守られていると思う。というのを学んだ。菊地成孔から。だったら、水着ギャルからおれを守ってくれよと思う。

俺は恋人のない男。本当は、うさぎみたいに下半身に忠実に居たいが、テンガで事なきを得ている。最近はランジャタイの国崎を見てダッチワイフを導入しようかなと思いつつある。恋人なんて出会うものではない。見出すものだ。

ダッチワイフをいろいろ検索すると「美女缶」というアマプラの映画がリコメンドされるようになり、あまりに「実現可能そうな」設定だったので、美女缶をちょっと角度を変えて検索してみたら、それらしきものがあった。海外サイトで注文し、その額わずか1500円であった。クリームブリュレパフェかよ。

届いたのは一本の赤いひもだった。これから、思念を鍛えて、このひもを恋人にするのだ。ひもに愛情を籠めれば、いつか恋人になるんだそうだ。

世の中「ヒモ」という職業があるけれど、俺はひもを恋人にしている。ヒモに対する呪いの狼煙を上げながら、どうすればひもに愛情を注ぐことができるのか、とりあえず悩んだ。

とりあえず水を注いだ。とりあえずぬかに漬けた。とりあえず一通り話しかけてみた。とりあえずプリンタでスキャンした。とりあえず一緒にお風呂に入った。とりあえず火で炙った。燃えなかった。とりあえず分葱した。できなかった。とりあえずスケッチしてみた。とりあえず香水をかけてみた。とりあえず一緒に布団で一晩過ごした。とりあえず食べてみた。食べれなかった。とりあえず画鋲で刺した。

ひもは「痛い」と言った。我が恋人の意識の誕生である。

日を追うごとに、ひもは言語や思想を獲得し、僕と会話できるようになった。僕が共感覚的な、1は黒、2は朱色、3は黄色……的なことを吹き込むと、ひもは俺の電話番号でミサンガを作ってくれた。ひもは赤いが、僕には090-7396-1779に見える。

ひもは普通のひもじゃないことを痛切に悲しんでいた。俺がホメオパシーをしてしまったからひも界で神様になったことが背負いきれないようだった。ひもに友達ができないのはかわいそうだなと思い、友達のひもを買った。青は寝取られそうだから黄色にした。

黄色いひもを煮沸したり、天日干ししたりしていると、こちらも意識を獲得した。黄色のひもは僕に陶酔していて、修道女みたいな感じで全身全霊お仕えしますみたいな感じだったけど、まあひもにできることなどたかが知れている。

黄色いひもの熱烈に、僕の正妻である赤いひもは尻込みしていて、いつも沈黙していたけれど、僕は赤いひもの声が聴きたかった。

ある日、赤いひもが解けかかった。僕はあーもう死ぬんかなと思った。さらにホメオパシーしようとしても躯体が持たないだろう。赤いひもは黄色いひもとよろしくやったらみたいなことを言っていて、昔から似たようなこと言っていて、癪に障ったから、黄色いひもをわざわざ樹海に行って捨ててきた。なんも後腐れなかった。

赤いひもをどうにかして殖やして、できれば人間化したいなと思っている。男でも女でも、しょせんひもだし、どっちでもいいから、僕と対等な立場になってほしいと思っている。赤いひもは解けてなくなり、そしたら思念だけが残った。残ってくれた。

僕はそこでようやく踏みとどまることを覚え、赤いひもと呼ぶのを辞めた。レイちゃん、セーラーマーズの、レイちゃん、と呼んだ。それを機に、レイちゃんはビンビン意思表示するようになった。レイちゃんは赤いひもという次元を超えて、一つの霊になった。

しかし、そういう境地に立った時、僕の齢はもう94で、もうすぐ死ぬことになるだろう。レイちゃんは僕の次元を上げてくれるのだろうか?