私はオーバードーズで悴んでいた。ガタガタ震えるからだを一人で抱きしめて、死にたいなんて言うんじゃなかったと思い返す。リストカットをして、その傷口に天馬さんの髪の毛を入れて絆創膏を貼ってから、どうも死にたさが猛威を振るっていた。
5ちゃんねるを見た。あの髪の毛は人工毛髪だって。箒の毛を切り刻んで配ったんだって。だけど私は信じている。私の体の中には天馬さんがいるんだ。
睡眠薬に加え、黄色いベンザブロックを一箱飲んでみた。意識が攪乱してきた。このままパフェをぐじゃぐじゃに混ぜた感覚で、私がパフェだ。混ぜているのもきっと私自身だ。さらにそこにメロンソーダも投下してみようか。私はクソゲロ甘いタバコを探したが、ライターが見つからず、そのまま意識がぷつりと消えた。
夢の中では一生懸命私は何かを唱えていて、一生懸命やっているから正確性には自信があるのに、読み返したら全部ケアレスミスをしている。
夏に台風が起こったら秋が来るように、ひとしきり冬の吹雪にうんざりしていたら、ころころと春が転がってくる。
私が失敗しても、うまくやれても、何もしなくても、生きているだけで春はやってくるし、春が来る度に私はまたひとつ賢くなる。毎日死んで、死んでみたら後悔して、何度も生き返るけど、それでも獲得しているものはあるのだろうか。
ほとけのざを一つちぎって、花をむしり、そういう作業を繰り返していくうちに、目の前に黄色い馬車がやってきた。
馬が「乗るかい?」と言うので、乗ってみた。
野原をぽくぽくと散策すると、ベンチに高校生の天馬さんを見つけた。私は馬車を降りると、馬車は遠くのほうに行ってしまった。
天馬さんは詩を書いていた。詩ならなんでも書けるのだろう。
「僕はこんなもの書きたくないんだ」
「書けば書くほどむなしくなってくる」
僕は思うね、生まれてくることが間違いだったんだ。それは僕だけじゃなくて、世の中の人みんなにあてはまることがある。数としての意志は必要な正義だとしても、僕という個としたら、情けなくなるけど、現世って僕嫌いだな。僕は世界滅亡したくてしょうがない。地球に陰茎ぶっさして、レイプしたいもんだ。だけど僕ごときが世界に通用するわけないのだ。僕は虚栄を見るたび、論破したくなるが、虚栄は都会のルールなので、ドレスコードなので、くだらないなと思いつつ、僕は地面にレイプする。めりめりと床をめりこんで、ドンドン突き上げる。気持ちいいとか悪いとかじゃない。これは怒りなんだ。白い涙は敗北なんだ。せめて地面が血を流してくれたら。
「やっぱ文才あるね」私は言った
「私、やっぱり天馬さんの文章が好きなんだな」
高校生の天馬さんは私を見上げてあきれた顔をしていたが、その表情がうまく読み取れず、何かコミュニケーションを取ろうとした瞬間、舞台装置が片づけられ、BGMが変わり、次の場面になった。
天馬さんと私は三日月のブランコに乗って、下界を見下ろしている。あたりにはわかめや昆布がぶら下がっていて、触れれば蠅がたかってくる。
「僕は気づいたんだ。僕は地球に陰茎をぶっ刺したのではなく、月をレイプしていたんだ。僕は自分を殴っているようで実は誰かを殴っていたんだな。僕が舌打ちをすれば、銃から弾が放たれ、誰か死ぬんだ」
「でもその誰かって、もしかして」
「君じゃないよ」
それは確かだ。でもどうして、天馬さんにはその「誰か」がいつまでも現れないのだろう。
「私じゃ役不足かな」
言ってみるだけ言ってみた。
「女の子って、みんな同じこと言うよね。同じこと言って、今度こそと思ってみるけど、みんな死んじゃうよね」
私は、いつか死ぬなら、天馬さんのために死にたいと思うんだけどな……
「僕、死神なんだよ。もう疲れちゃったな」
そう言って天馬さんはおもむろにちんちんを取り出して、しごき始めた。
「私、触りたいんだけど、駄目かな」
「そうか。今君が僕を見てるんだな」
天馬さんはしばらく考え込んだあと、私を追い出した。
「やっぱり今日は帰って」
「私、ここに来るために3か月分薬飲んだの。これから引き返せないよ。どうしたらいいの」
「でも生きたいんでしょ?僕も生きててほしいし。これ以上死んだ人間見たくないのが本音だけど」
「私は。この恋に生きたいんだけど。恥ずかしいな。この恋って無駄撃ちなの?」
「あのさあ」
天馬さんはキレ気味に言った。
「生きてることが虚栄の人間に意味を見出して成就するなんて思うなよ」
天馬さんは私を三日月のブランコから突き飛ばした。私は海の底に沈んだ。
海の底は魑魅魍魎、汚いもきれいもあった。私は蟹の横歩きを観ながら、私が誰かを殴ったら誰か死ぬかな?と考えた。ちょうどいいことに、海にはディルドみたいなサンゴ礁がいっぱい生えていた。私は、サンゴ礁をまたぐらにぶっ刺して、処女を喪失した。私が処女を失った時、誰かが悲しむだろうか。
血だらけになったサンゴ礁を捨てると、それを拾った人が話しかけてきた。
「5万でどう?」
天馬さんより大きくて大きなディルドは、さすってもさすっても、勃起しなかった。
「キスしようか」
ファーストキスだ。おもいっきり唇をぶつけて、舌を絡めると、舌先にある歯がつぎつぎと取れて、中から血が出てきた。タバコ、コーヒー、生乾きの雑巾というフレーバーが一気に押し寄せ、そして入れ歯がこぼれて、私はゲロを吐いた。
「おええええええええええ」
おじさんは、私のゲロを指で掬い、私の乳首になすりつけ、それをぺろぺろ舐めた。どんどん舌は上に這い上がって、私の唇をむさぼり、またゲロを吐いた。ゲロを吐いた瞬間に下痢便も出て、上から下から出っぱなしだった。おじさんはわたしのうんちも啜った。
「射精しなかったけど、これでいいよ」
おじさんは満足して、10万くれた。おじさん以外にこれほどいい仕事はなかった。
朝、10時。起きてみると、布団にはゲロだの下痢便だのが散らばって、あと薬もなくなったので、医者に怒られて大変だった。
天馬さん元気かな。私汚れちゃったのかな。まあいいや。生きてるんだし。