文字狂い

オタクにもサブカルにもなににもなれずに死ぬ

私の名前はドルガバ愛子

退屈には焼きそばUFOを、憂鬱には高麗人参のよく利いたコカ・コーラを。

そういう人生だった。しかし、私の人生で退屈な日は一年に一日あるかないか。憂鬱な日は五年に一遍。いつのまにか、私の人生にはクラッシュ&ロールがあり、いかにしてそれをぶちのめしてきたことか。その技術。この会社では使えそうにないなと思いながらも3年働いてしまった。この会社がどんな会社か、一言も説明できそうにないけど、私は今日も社内の人数分のコーラにカルピスを割る仕事をしてきた。あとは亀の形をしたせんべいを上司や上役に差し出せば今日は終わりだ。

私のコーラカルピスを飲んだ上司が言った。「今度、AV出ない?」「うちの会社実はSODなんだよね」

確かに私はぽっちゃり系に該当するが、そんなところに需要があるとは思わなかった。好きだった同僚がもうすぐ結婚するって聞いたし、せっかくならAVに花嫁に行くかと思った。

撮影初日。覆面を渡された。

「何ですかこれ?」「実は、レスラーという体でAVを撮ろうと思ってる」「私運動神経悪いですけど」「まあどうにかなるよ」

私は覆面をかぶり、ハイレグのタイツを身に纏った。ああこれ思い出した。ダンプ松本を演じるゆりやんレトリィヴァだ。あれの二番煎じでエロを釣るのだろう。ゆりやんも思えばシコいはシコいもんな。

相手はプロのミゼットレスラーを雇い、試合をやった。なんか口上があるらしい。

「お前はなんでAVに出たんだ」

「え、ええと」

「そんなんでいいのか!?」

「え。ええ?」

「プロレスなめんなよ」

「えー。ええと」

そこでボディブローを食らった。血反吐が出ると思ったら出なかった。こいつら小人なのに人を殴れるんだ?!と思った。

そしてミゼットレスラーに視姦されながら、レフェリーに欲情して、いつのまにかエロエロメロメロになった経緯が延々と撮っていくのだが、永遠に終わらないと思った。AVめんどくさすぎる。精子が出るのと中に出す精子は別だし、やけに固くて香ばしいレフェリーの地毛はカツラなのか自前なのかを考えると、自分という生命体の次元が一個上にあがるような宇宙からのシンパシーを感じて、一時期心が無になっていた。まあ、熱中症なのだが。

最後にミゼットレスラーに「これで抜けるかどうか」をインタビューして終わっていたが、ミゼットレスラーも疲れたらしく「僕には難しくて抜けません」と言っていた。そこは正直にやってていいんだな……と思った。

それも今となっては昔の話で、マジックミラー号のようにオムニバスになっている内の一つとして私の撮影があったわけだが、意外と反響があった。多分今や絶滅危惧種のミゼットレスラーが出演したのがデカかったと思う。

あんな私の出来事で言えば吉原大炎上的な人生の中でもまあまあ博打みたいなことをしてても、過ぎ去ってしまえばまた上司にコーラカルピスを注いでいるわけで。なにげない風景のなかになにげなくないクラッシュ&ロールはぶちこまれていくという。

「この前の、ご苦労さん」「いえ、まあ、はあ」「今度は本格的にプロレスラーにならない?」「え?」「実は、この会社、新日本プロレスなんだ」

私は覆面をまた被った。そしてハイレグのタイツを身に纏った。局部はTバックを穿いて毛を巻き込んでいるという対策をしている。

前いたミゼットレスラーがセコンドに立っていて、私は地下アイドル的なアマチュアレスラーと対峙して、ひと悶着やることになった。解説には吉田豪もいる。

「いけ!ドルガバ愛子!お前ならやれるぞ」

とミゼットレスラーが声の限り叫んでいる。この源氏名は今日からついた。ドルガバは好きではなく、どちらかと言えばブルガリ派だが、しょせん私は安っぽいのでドルガバがちょうどいいだろう。

相手のピンクの苺まみれの地下アイドルは、絵恋ちゃんみたいな感じで毒舌もやるよ?みたいなテイストのアイドルだった。

「ドルガバ愛子!淫乱!女の迷路の行く末!」

とか言ってたけど、ビッチは言えなくて淫乱は言えるんだ……と感心していた。

「マユコちゃん。っていうけど、マユコちゃんじゃないよね。吉田豪に媚び諂ってる完全にマンコちゃんじゃん!」

って言った瞬間にドカンと会場が湧いて、ドルガバ愛子のアンチが一気に増えた。

「ドルガバマンコにキック一発捻じ伏せろ!!!」

「ドルガバ愛子のハイレグ引っ手繰れ!!!」

そうは言っても、誰かのマリオネットである地下アイドルがしていいことは数限られていて、私のハイレグをどうにかするというようなことは絶対できなかった。そのうえで、私にどうにかして勝たないといけないが、運営はその間のいろはを地下アイドルに教えるはずがなく、そして私も一介の会社員なので訳わからない。その予定調和をどうするか、相手も私も処理する能力がないのだろう。30分くらい何もしないで時間が過ぎていった。

私は地下アイドルのために一肌脱いだ。レフェリーを羽交い絞めにして、首筋からひと感電ぶちかまし、そこで生き血をすすり、余分なものは会場中に発射して、目をくらませ、それからノルウェイの森へ逃げた。私は、バンパイアなのだ。